現状、いわゆる大手企業で主業務として(アドミやアシスタントがメインの兼務ではなく)通訳業務を提供している通訳者のほとんどが、直接雇用、業務委託など就業形態の差こそあれ、有名どころの通訳学校のいずれかを卒業、あるいは一定期間通学して学んだ人だと思います。
昔、いわゆる大手の通訳学校が存在しなかった、あるいは地方には校舎がなかった時代には、OJTや独学で通訳者になられた人がほとんどだったそうですが、今は通訳エージェントもそれぞれ通訳学校を併設していたり、登録インタビューでどこで学んだかを聞かれたりするので、独学の人は稀だと思われます。
しかし、通訳学校というのは、かなり特殊な場所です。
まず、入学基準が厳しいです。各学校のメインコースである会議通訳科や通訳本科(学校によって名称はいろいろ)であれば、英検でいえば1級、TOEICであれば950点以上を最低基準として要求している学校も珍しくありません。それでやっと、通訳と名前の付く一番下のクラスに入れるという感じです。そこに達していない人は、英語力養成クラス、などと冠したクラスに入って、そこから期末試験に合格できれば上がって来られる仕組みになっています。
次に、授業料が高いです。多くの学校では、1年で50万円ならリーズナブルなほうで、レベルが上がってくるほど、70万円、80万円と、授業料も高くなります。入学から卒業まで、3年で最短、平均5年以上といわれているので、総額では相当な費用になります。ただ、頑張って継続し、職業にした場合に得られる報酬を考えれば、妥当な額なのかと思います。
そして、毎回の宿題がとても多いです。私も、通訳学校に通っていた時期は、大学入試よりずっと勉強しました。基本的には毎回別のテーマを扱うのですが(来週は洋上風力発電、その次は二ホンウナギの生態、など)、概してざっくりのテーマと限られた単語しか与えられず、自分が訳す内容が、著名な人のインタビューなのか、TV番組の抜粋なのか、などは、その授業の当日までわかりません。何が出てきても、授業で訳さなくてはならない。なので、準備として自分で内容の当たりをつけて、ニュースで関連記事はないか探したり、出そうな動画を見たり、専門家の話が理解できるように、そのテーマの本を最低5冊は読むように、と言われていました。フリーの通訳者は毎回新しいテーマを扱うため、あらゆるジャンルに対してある程度の知的好奇心がないと務まらない仕事なので、そういう癖をつけるためなのだと理解しています。
また、普通の学校とは違って、何年で卒業という決まりはなく、永遠に通学する人もいます。期末テストに合格できず同じクラスを延々と繰り返す人も少なくないからです。進級率は二桁いかない場合もあります。そして、何度も滞留した人の数割は、メンタル的・金銭的に続けられずにやがて辞めてしまいます。
その他に特徴的なこととして、レベルが上がってくるほど怖い先生が多いです(ここだけの話ですが…)。基本、授業開始前、先生が入ってきた時から出て行かれるまで、空気が張り詰めており、日によっては入ってきた時の顔つきで、(今日は特にやばそう…)とわかることもあります。そんな時は誰が地雷を踏むか、くじ引きのようなもので、授業後に友人と励ましあって帰ります。ちなみに私はとある授業で、3色ボールペンのノック音がそこ、うるさい!と突然叱られたことがあります。(もちろん次の授業からは3色ボールペンの使用は止めました。)
学校によっては、2 or 3回連続で進級できなければ退学になるところもあります。でも、それは実は親切なのではないかと思います。資格ビジネスと同じで、時間と金銭にある程度余裕のある層を狙ってずるずると夢を見させ続けるというのが、学校にとって一番儲かると思うので。(噂では、最初のタームで進級できたという満足感を与えて次期も継続させるため、レベル分けテストではあえて実力より一つ下のクラスに振り分ける学校もあると聞いたことがあります。)
とまあ、通訳学校をディスりたかったわけではなく。実際私も長い間、かついろいろな学校に通ったので、通訳学校は好きでした。ただし、入学するにはいろいろな覚悟と、家族がいる場合には家族にも我慢を強いるなど(毎日が受験生のような生活になるので)、協力してもらう必要がある、ということも、よくわかっております。
それでも通訳に興味があって、通訳学校に入りたい、あるいは、通訳学校に挑戦するかはまだ決めていないけれど、中でどんな勉強をするのか知りたい、という人のために。
通訳クラスに晴れて入れた場合、最初にする勉強があります。私の時は通称「トレンド」といわれるジャンル別日米表現辞典を一冊暗記することでした。(今Amazonで見たら、最後に購入したのは2014年の1月だと表示されました。一冊目がぼろぼろになって、2冊目を購入したのです、なつかしい…)
ISSとサイマルは、このトレンド暗記テストをしていたと思います。
今、ISSのサイトを見てみたら、トレンドではなくて、本科2(プロ科の2つ下)ではこの本を使用します、と書かれていました→キクタン ニュース英語 super
トレンドはやめてしまったのか、これも併せて使うのかはわからないのですが、表紙を見た限り、この本、内容的にはトレンドに近いけれど、よりニュース寄りなのかな、という印象を受けました。
気になったので、私も一冊ポチってみました。届くのが楽しみです。