NHKの朝ドラ「ブギウギ」盛り上がってますよね~
その中で、先日、思わず心の中で突っ込んでしまったシーンがありました。
(なお、決してドラマの内容の批判ではありません。ドラマ自体は素晴らしいのです。これは、超マイノリティ視聴者である通訳者視点からの妄想考察です。)
物語の舞台は戦前~戦後の日本。
主人公のスター歌手スズ子に心酔し、売れない時代から付き人をしてくれていた、小夜ちゃん。
彼女が米兵と恋に落ち、渡米するためスズ子とお別れする、そんな感動的なシーンでした。
スズ子は英語がわからないため、恋人で旧帝大卒の愛助が、米兵サムとの通訳役を買って出ます。
スズ子の涙ながらの台詞(うろ覚えですが、量はこのくらいはあった)
「サム…小夜ちゃんのこと、よろしくお願いします!小夜ちゃんは、よう喋ってやかましいし、がさつなとこもあるけど…この子は苦労人なんや。えらい苦労してきてんねん。サム、どうか小夜ちゃんのこと、大事にしてあげてください!」
愛助の通訳
“Please take care of Sayo-chan.
She is a good girl.”
以上。
(…えっっ、それだけ…!?)
やかましいとか苦労人とかは完全スルーされておりました。
まあ、スズ子の言いたかったことの神髄はそういうことなのでしょう。
逆に、ガチに訳されても、英語がわからない人も多いだろう。脚本にはそういった深い配慮があるのだと推察します。
しかし。
妄想ですが、もしこれが現場の通訳であれば?
クレーム炎上間違いなし案件なのです
状況や依頼内容によっては例外もありますが、通訳の基本は、何も足さない、何も引かない。できるだけニュートラルでいること。
たとえば、一つのことを伝える際に、何度も同じ言葉を繰り返す人がいたとします。そして、通訳者は、聞き手に分かり易くしようと、その重複部分を省略して、綺麗に1回にまとめた形で訳出したとします。
その場合、どう評価されるかというと。
①クライアントがある程度英語がわかる場合
(ああ、この通訳さんは、無駄な部分を端折ったんだな…)と思ってくださる可能性もあるかもしれません。
しかし、それが無駄な部分かどうかを判断するのは、本来お客様の側なのです。
話し手が何度も同じ言葉を繰り返したことには、何らかの意図があるのかもしれませんし(単に話が下手という場合もありますが…)コミュニケーションは言葉の内容のみでなく、声色や話し方、表情など他の多くの要素から成立します。
だから、繰り返しも含めなるべく同じに訳すべきなのです。
ですので、この場合、良かれと思って省略したとしても、勝手に端折ったりまとめることでクライアントの意に反し、大抵は通訳者の評価がよくないものになってしまいます
②また、クライアントが英語がほぼわからない場合
彼らが通訳者の良し悪しを判断する重要な基準の一つは、驚くべきことですが、
「元の言葉と訳した言葉の量が同じくらいかどうか」
ということなのです。だって、内容は判断できないから。
なので、この場合も、通訳者の評価は残念なものになります(あの通訳、あんなに喋る量が少ないのは、実はあまり英語がわからないのでは…??とあらぬ疑いをかけられることに)
結局、訳出を端折るのは、通訳者にとってハイリスクな行為となる可能性が高いです
私自身も、気心の知れた相手の通訳で、会議開始前のとりとめもない雑談を訳すように依頼されて、ポイントとなる内容のみ伝えたこともあります。そうした時ですら、
「通訳みじかっ!」
と言われたことがあるので
自戒も含めて、原則として元の言語と同じくらいの分量で、かつ、なるべく話し手のキャラクターに寄せた訳出を心がけています。
(とはいえビジネスのクライアントは大体なので、似せるのも難しいのですが)
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通訳の技術 超大御所、小松先生の名著。最初の一冊におすすめ。
英語通訳への道:通訳教本 私も通ったNHK国際研修室では、入学を許可された後、授業開始までにこちらの本を購入して自習しておくことが求められました。通訳学校に入るかどうか迷っているかたにお勧めです。
通訳者・通訳ガイドになるには 上の2つは通訳技術の中身に関する本ですが、こちらは職業としての概要、どうやったらなれるかに関する本です。読みやすいです。