和訳について:同時通訳で訳語に迷う単語
私がかねがね英語学習者におすすめしているのが、英和辞典は補助的にして、英英辞典をどんどん使いましょうということです。
その理由は、言葉というのは文脈によってニュアンスが異なるけれど、英和辞典に頼っていると、そこに訳として書かれた日本語に囚われてしまって、文脈に応じたこなれた日本語が出てこなくなってしまうということや、英語と日本語の単語は一対一対応しているわけではなく、ある単語の意味の一部だけが重なっているのに、英和辞典に慣れてしまうことで「Aという単語の意味はB!」という風に、一対一対応の思考になってしまうことなどが挙げられます。
英英辞典は、ある英単語を、その単語を使わない平易な英語の文章で説明しています。なので、日本語の言葉に縛られることなく、細かなニュアンスが把握できるというメリットがあります。
しかし、日頃から英英辞典を使っていて意味のニュアンスはわかっていても、日本語にしづらい英語というものがあります。そういった単語が通訳業務の中で出てきた場合、通訳者の腕の見せ所ということになります。
逐次通訳ではある程度のまとまった文章を聞いてから訳すため、文脈全体の意味を把握してから訳に入れるので、それほど悩まずこなれた日本語にしやすいです。
しかし、同時通訳の場合、時間的猶予がなく、一文ずつばしばし訳出していくということもあり、咄嗟の訳出判断を悩む単語というのが多々あります。
たとえば例として挙げられるのが、
“insightful“。
英英辞典によれば、
showing a clear and usually original understanding of a complicated problem or situation
となっています。
イメージはわかりましたが、ではこの定義からどんな日本語が当てはまるか、参考にするために英和辞典も見てみると、
「洞察力に富む」
という定義になっています。
伝えたい意味のコアは変えずに辞書の定義から脱却した訳を
では、たとえば会議において
Your input is quite insightful. I appreciate.
といった発言が出た場合。
皆さんなら、どう訳しますか?
ちなみにinputは、一般には「入力」という意味ですが、ビジネスの文脈では「考え、助言、情報」といった意味合いになります。Commentと似たような感じですね。
ビジネスの場とはいえ、「あなたのご意見は洞察力に富んでいます。ありがとうございます。」では、意味はわかりますがあまりにも辞書的すぎて、翻訳調の日本語というか、口語としてはふさわしくありません。
ですのでこの場合、文脈や話す人の立場に応じて、
「素晴らしいご意見ありがとうございます!」
「参考になります!」
「勉強になります!」
などと訳したりします。
つまり、和訳においては英和辞書の定義が硬めの言葉ほど、定義そのままではなく、通常使うようなこなれた日本語にすることが理想ですね^^
わたしが主催している勉強会(英語中・上級者のつどい)でも、英語メディアの記事を手分けして読んでいただいたあと、ご自身が読まれた部分について、「訳してください。」ではなく「何が書かれていたか、皆さんに教えてあげてください。」とお伝えしています^^ それがなかなか難しいのですが、慣れてくるとだんだんコツがわかってきて、こなれた普段着の日本語になってきます。
では英訳については?
今度は日本語を英語にする場合です。
この場合、日本人の考える英文では堅苦しすぎる・迂遠すぎるという傾向があります。
例えば、
「彼ってすごくモテるんだよ!」
って、あなたなら英語でどう言いますか?
英訳はじつは簡単な文章のほうが使える!
上の問題、多くのかたは以下のように答えるのではないでしょうか?
He is very popular among girls!
これはもちろん間違いではないです。
ただ、ちょっと説明口調というか硬い印象で、日本語の持つカジュアル感とはレベルが合っていない感じがします。
ではなんと言えばよいのか?というと。
Girls like him!
これでいいんです!
英語ネイティブはこの表現をよく使っています。
文法的には All theをつけたほうが正しいようにも思えますが、口頭では短い表現のほうが好まれる傾向があります。